重苦しい雰囲気を打破すべく、口を開いた。
「そんなに英語をなんとかしたいなら、メリエムさんにでも教えてもらえば? 彼女、英語も話せるんでしょ?」
瑠駆真の表情が変わったのを、美鶴も見逃しはしない。
「日曜日、メリエムに会っただろ?」
息が、荒い。
瑠駆真がメリエムに対して好感を持っていないのは、今までの態度からも、そして先日のメリエムの話からも理解している。
メリエムの名前を出したのは失敗だったと後悔したが、今さら後には引けない。
「会ったわよ」
至極あっさりと、ごく当たり前のように肯定する。瑠駆真の手が、美鶴の片手首を掴む。
「何を言われた?」
それは、今までとは違う。今までの、穏やかな春の風を思わせる柔和な口調とは違った、激しさを含ませる語気。
「何って?」
「何を言われた?」
有無を言わせず繰り返す。答えなければ、延々とこの質問を繰り返すに違いない。
「私に、会いに来たと言われたわ」
手首を掴んだまま、瑠駆真は視線を落した。
美鶴が嘘をついているワケではないことを、瑠駆真は知っている。同じことを先日、メリエムからも言われたのだから………
「だって、それが今回の最大の目的だもの」
ケロッと言われると、なお腹が立つ。
「美鶴に……… ヘンな事言ってないだろうな?」
「ヘンなコトって?」
切り返され、ギリッと唇を噛む。その姿を、メリエムは面白そうに笑った。
「そんなに怒るルクマを見るのは、初めてね」
「腹を立てた事は、今までにもあったと思うけど?」
「あんなのはただの癇癪よ。目的を持って腹を立てるのとは違うわ」
なぜ腹が立つのか、本人もわからないまま突然暴れだし、周囲を困惑させる。
思い出したくもない己の醜態。
「よほど好きなのね」
「あぁ 好きだ。悪いか?」
「悪くはないわ。むしろ嬉しいわね」
「嬉しい?」
「ルクマが誰かに想いを寄せるなんて、思ってもみなかったもの。アメリカでのあなたって、本当に心を閉ざしてしまって、困った子だったから」
「誰だってそうなるさ」
「最初は、違ったわよね?」
顎に人差し指を当て、思い出すように上目で考える。
「最初はなんとなく前向きだったわ。アメリカでの生活にも馴染もうとしてた。でも、ダメだった……」
最後の方は確認するように瑠駆真を見る。瑠駆真は黙って睨み返す。
「困難に直面すると、すぐに諦めちゃうのよね。自分はダメだ。もう何もできない。アメリカなんて――――」
「何が言いたいっ!」
床へ向かって叫び散らす。
「何が言いたいんだっ!」
「信じられなかったのよ」
相手の態度にも決して動揺することなく、年上らしく冷静に答える。
「あれほど嫌っていたミシュアルに、ルクマから電話してくるなんてね。考えられなかったわ。しかも内容は、部屋をもう一つ借りて欲しい。使うのは自分ではない。詮索はするな…… ですものね。ミシュアルが気にするのも、わかるでしょう?」
|